1988年4月

 前号で「幼児にことばや文字を教えるには絵本の読み聞かせが良い」と書いたが、これは絵本を教科書代りに使えというのではない。むしろ、そういう下心で読み聞かせをするのは邪道である。
 が、幼稚園の入試のためにワークブックでことばを習得させられる子ども達を思えば、せめて絵本の読み聞かせを、と叫びたくなる。
 ことばを知識として貯えるばかりで、愛を語ることも知らないロボット人間を育てるのはもうやめてほしい。

ねこのグルメとまほうつかい

 レストランを開業している猫のグルメは、鳥肉や魚の料理にすっかりあきあきしてしまう。そしてある日、昔の猫が食べていたというネズミの料理が作りたくなり、マーケットにも売っていないネズミを捕まえるために、お店を閉めて田舎に出かける。
 野にも山にもいないネズミを捜しあぐねたグルメは、"この世で最後の魔法使い"に出会う。
 そこで、この魔法使いに出してもらったネズミを使って次々とフライ、シチュー、グラタンなどを作っておいしく食べるのだが、十日ほど経ったある日、目覚めたグルメが鏡をのぞき込んでみると......。
 ストーリーの楽しさ、表現のおもしろさが、子どもを無理なく本の虫にしてくれる。


ぶたかい王子

 昔、貧乏な王子が皇帝の王女を好きになり、貴重な二つの贈り物を添えて結婚を申し込んだ。それは、人の心を安らかにするバラの花と、世界中の音楽を我が物にするナイチンゲールだったが、王女にはその価値が分からず、結婚を断ってしまう。
 そこで王子は豚飼いに身をやつし、次々とおもしろい細工物を作った。王女は、それがほしくてならない。が......。
 語りかけるように書かれた文章は小さな子にも分かりやすく、こまやかに描かれた絵が、子どもの心を物語の世界に連れてゆくことだろう。


ぼくらのきょうしつジャングルだ

「ぼくのうちにはワニがいます」という作文を書いてしまった たつおくんは、みんなを家に連れて行ってワニを見せるのだが、「うそをついているのとおんなじだ」と言われてしまう。ところが、よしくんが「でもねっ、おしいれあけたら、こーんなでっかい......」と箱で作ったそのワニの話をしてくれたのがきっかけで、皆でワニやほかの動物を作ることになる。
 クラス全員が力を合わせて大きな動物を作り、木や草を教室いっぱいに生い茂らせる様子が、まるで現実のように生きいきと描かれている。
 ふりやかよこの暖かいタッチの絵も、子ども達の心をとらえる。


おしゃかさま

 仏教圏に暮らしていなければ、忘れて過ごしてしまう四月八日の花祭り。
 日本の文化に染み込んだ仏教、お釈迦様の教えを、親から子へ、こんな本で無理なく伝えたい。