1988年3月

 幼い子どもにことばと文字を教えるとき、文字はことばで、ことばは文章で教えたい。つまり、あいうえおを読み書きさせるのではなく、あひる、あめ、あし、とことばを重ねてあを意識させ、あひるが歩く、あひるが泳ぐ、と文章でことばを心に焼きつければ、ことばや文字が記号ではなく、心を伝える手段として幼児の身につく。
 そのためには良い絵本を、心を込めて、繰り返し読み聞かせるのが一番である。

かわいそうのこと

 ラッコのぼのは、ひとりで海を見ているうちに、海はこんなに広いのに世界に占める自分の割合が、あまりに小さくてかわいそうだ、と思い始める。泣きながら歩いてゆくと、カニもシマリスもぼのより小さい。みんなかわいそうだと泣いているとスナドリネコに出会い、「かわいそうだというのは好きだってことだろう」と言われてショックを受ける。結局、世界中みんなかわいそうなのだから、かわいそうじゃないのがかわいそうなのだ、と気づく。
 内容は哲学的だが、子どもにはただおもしろく、大人には心安らぐほのぼの絵本である。
 ただし表題でも分かるように、感覚的なことばの使い方をしているので、同じ著者の他の作品までは薦めない。


ティーポットのひみつ

 みつばち谷は住み心地の良い所なのに、ネコのタビサがいるばかりにネズミはほとんどいない。いるのはティッピーとトッピーの二匹だけ。
 二匹のネズミが屋根裏のこわれたティーポットに住んでいるのを知ったタビサは、ネズミパイを作る材料の粉を買いにでかけ、ひどい風邪を引いて寝込んでしまう。が、枕もとにはいつのまにかミルクのお皿が......。
 この本は「レーシー・ヘルプスのほん」と題する四冊セットの一冊。
 作者の絵はていねいで、動物達の表情もリアルであどけなく、物語をより豊かな心暖まるものにしている。


お助け・三丁目が戦争です

 表題になっている「三丁目が戦争です」は、シンスケ君達がいつも遊んでいる公園に、隣の住宅地の月ちゃん達がやってきて男の子を追い出してしまうところから始まる。なにしろ女の子は力もあるし、勉強もできる。とても強いから、月ちゃん達が来ると男の子達は皆、逃げてしまうのだ。でもシンスケ君は思う。「公園は皆のものだ。女の子だけのものじゃない。」そこでたったひとりで月ちゃんと対決しに行くのだが......。
 シンスケ君の目を通して語られるこのお話、楽しく読める愉快な一編なのだが、実は大人の身勝手さや、思いやりのなさなど、ささいなことがきっかけで、戦争が始まることもあるのだと、若い読者に訴えている。
 この本にはほかに小説、戯曲、エッセイが入っているが、この筒井康隆は少年向きの良い作品をたくさん書いている作家である。


みんなで作る楽しいモビール百科

 季節ごとの行事に合わせた作品を見ながら、子ども自身が早速手を動かしたくなる本。身の回りの素材を生かすヒントも絵と文で親切に説明されている。
 今年のひなまつりは手作りのモビールで楽しんでみてはどうだろう。