「ある日、おまえがはなれていってしまうことは、わたしにはわかっていた。......今、目の前にチャンスがあるなら、それをつかみなさい」と父さんは言い、母さんはわあわあ泣いた。こうして部族社会を去りフランスへ留学した筆者には、人種差別や貧困という苦しみが待ち受けていた。
そんな生活の中で心の支えになったのが、ギニアでの少年時代の回想を書きつづることであった。
こうしてできあがったのが本書で、守り神の蛇、呪文(ドゥガ)、栄光の踊り、割礼など、マリンケ族の伝統的生活や風習が描かれているが、そこに生きる"アフリカの子"の思いは、遠い日本のこのそれになんと近いのだろう。アフリカの少年の憧れ、恐れ、恋が、タムタムの音のように読者の心に響いてくる。翻訳も美しい。