メディア9

 栗本薫はエッセイスト中島梓の小説家としてのペンネームで、彼女はこの2つ目の名前で次々と読みごたえのあるSF小説や時代物、通俗小説などを産み出している。
 この"メディア9"はSFだが、恒星間を人間が自由に往き来できるほど発達した未来にそれでも残っているに違いない人間同士の葛藤、愛や嫉妬、不安などを描いた心理小説でもあり、結末近くでは人間の宗教観さえ問いかけている。
 主人公のリンは、母親と共にスペースマンの父の帰りを待ちつづけている。スペースマンの家族は特権階級として登録され、一般市民と区別されている。それは名目だけでなく、外見も知能も一般人より優れ、運動能力にも、また豊かな感情と自制心にも恵まれているからで、それゆえに市民から疎まれ、事あれば共同生活からはじき出されそうになる。
 ただ読めばおもしろいSFだが、帰国子女が時に疎まれるのも、このスペースマンの立場と似ているようで、複雑な読後感がある。

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