1986年5月

近ごろ、小学校四年から子どもを学習塾に通わせる親が多い。
せっかく読書習慣がつく時期にと、残念でならないので、受験結果を調べてみて驚いた。"文庫"に通い続け、小学生の間に読書が身についた帰国児達は、高校、大学入試となると実力を発揮し、教育ママのうらやむ志望校に、続々と合格していたのである。
本を読むのは入試のためではないが、無理な塾通いのように、害になることはない。

ライオンと魔女―ナルニア国ものがたり〈1〉

 ファンタジーの中のファンタジーと言われる名作で、今更とも思うが、海外にいるとこういう本さえ知らずに過ごす人も多いので紹介したい。
 物語は7巻から成るが、それぞれが完結していて、どれを読んでもおもしろい。一冊読むと、どうしても全部読みたくなる本だから、初めから物語の流れに沿って読んだ方がよい。以前は作者が書いた順に読まれていたが、この岩波少年文庫版にも書かれているように『魔術師のおい』『ライオンと魔女』『馬と少年』『カスピアン王子のつのぶえ』『朝びらき丸東の海へ』『銀のいす』『さいごの戦い』の順に読むと全体がよく分かる。
 英語版には"9歳から13歳向き"とあるが、日本語版では瀬田貞二訳の日本語が美しく、ふりがなもふってあるので、読む力のある子なら低学年でも十分に楽しめる。


かぜひきたまご

 かぜをひいてしまったぼくは、青い顔で病院に行く途中、卵を見付ける。温めてやろうとセーターの中に入れると、突然ぼくのかぜが治り、そのかわりに卵がかぜをひいて青くなる。
 真っ赤になって怒っているママにそっと卵を触らせると、ママはニコニコ。かわりに卵が真っ赤になって怒り出す。
 いじめられても、かわりに痛がって泣いてくれる卵は、とても便利だったのだが、ある日、むくむくと大きくなり始めて......
 子どもがつらい思いをする時、こんな卵があってくれたらと、親の願いもちょっぴり含んで、とても身近な子どもの夢を描いている。
 ぼくが道草しながら病院にいく様子や卵がせきをするところなど、字がまだ読めない子でも、絵で楽しめる本。


夏への扉

 主人公の飼っている猫は、冬になると、夏への扉を探し始める。家中のドアのどれか一つは、きっと夏の戸外に通じていると信じ込んでいるのだ。そして恋人と親友とに裏切られ、会社も乗っとられた彼も、人生の夏への扉を信じて長期冷凍睡眠の道を選ぶ。
 しかしやがて目覚めて積極的に自分の未来を造っていくのだが、この主人公の誠実な生き方と、ジンジャーエールが好物という奇妙な猫との心のつながりとが、このSFを感動的なロマンに仕上げている。
 冷凍睡眠もタイムマシンも現実になる日は近いことだろうが、その時まで、果たして人間はこの誠実さを保ち続けることができるだろうか。


日本人の神さま

 火の神、水の神、土の神と、古来日本人の生活の中にある神を通じて、日本の心を探る。