1984年11月
十一月の声を聞くと炬燵に入ってみかんをむきながら本を読みたくなる。みかんの好きな子は、盛った中から器用においしいのを選び出すが、本も、読み慣れた子は本屋の棚からひょいひょいと、面白そうな本を抜きだしてくる。本代はかさむが、父親の飲み代や母親の衝動買いを思えば安いものである。ひとくち童話
「げんきな、おとこのこが、マラソンをしました。どこまでも、まっすぐにはしりましたから、かえりはでんわをかけて、じてんしゃで、むかえにきてもらいました」という他愛ない、そのくせ暖かく心に残る話がいくつも集録されている。
"子どもにお話をねだられた時や、昼寝前などに話して聞かせる短いお話集"と表紙にも書いてあるが、せっかくことばを選んで書いてあるのだから、ストーリーだけでなく、一言ひとことを正確に覚えて話してあげるといい。続編のほうが話が短いので覚えやすく、おこりんぼのおとうさん、あわてんぼなおばあさんなど家族シリーズになっているので、こちらからはじめる方がいいかもしれない。
天動説の絵本
本全体が大理石に描かれたような、美しい凝った絵本である。安野光雅の精緻な絵には農夫の蒔く種まで描き込まれ、一見写実的でありながら、非現実的な世界を描き出している。ジプシーや魔女狩りの絵を見るだけでも、ページごとに物語が聞こえてくる。錬金術師の小屋につっぱったワニがぶらさがっていたり、ひげのおじいさんが地面にANNOと文字を書いて考え込んでいたりする。作者は絵本好きの人にだけ分かる楽しいメッセージをあちこちに潜ませている。
もちろん内容は天動説をかみくだいて子どもに語りかけているのだが"解説とあとがき"で――この本は、もう地球儀というものを見、地球が丸いことを前もって知ってしまった子どもに、いま一度地動説を知った時の驚きと悲しみを感じてもらいたいと語っており、――現代の情報過多を考えさせられる。
チョコレート工場の秘密
着るものや食べものにも不自由な生活をする七人家族のチャーリーは、ある幸運からチョコレート工場への招待券を手に入れる。工場を見学し、食べきれないほどのチョコレートを貰うが、招待された他の四人の子どもやその家族ともども、チョコレート工場の秘密に巻き込まれていく。
ページを繰るだけのつもりでもつい読み進んでしまう面白さだが、原書の方がもっと面白い。原書では『チャーリーと大きなガラスのエレベーター(直訳)』という続編も出ているが全編ことば遊びで洒落が続くためか、邦訳は出ていない。これはぜひ英語版を読んでおきたい。
日本のわらい話―川崎大治民話選
落語や小話のエッセンスになっている民話など、百十話を集めている。語り口も平易でこなれているし、二俣英五郎のさし絵もいい。